Song Arrangement Workshop

この Song Arrangement Workshop では、弾き語りミュージシャンに向けた、編曲の「守破離」の「守」をお伝えします。「破」「離」に関してはそれぞれが様々な音楽を聞き、コピーし、分析し、工夫していくのが良いでしょう。

また、今回は主旋律とコード進行は所与のものとし、その中でどのように編曲していくかを考えてみましょう。今回扱う主旋律とコード進行は、このようなシンプルなものです。

音源:

コード進行

| C | Am | F | G |

概論

音楽の3要素

さて、音楽の3要素というのを聞いたことがあるでしょうか。音楽の3要素というのは

です。編曲においても、この3要素を意識することが大切です。

リズム

音楽の3要素のうち、もっともその「ジャンル」を特徴づけるのは、リズムです。「タンゴのリズム」ならばその曲はタンゴに聞こえるし、「レゲエのリズム」ならばその曲はレゲエに聞こえるでしょう。ポピュラー・ミュージックにおいて、多くの場合、リズムは

の掛け合いによって表現されます。

メロディ

音楽の3要素のうち、主役になるのはもちろんメロディです。メロディは

のふたつに大別できます。ポピュラー・ミュージックにおいては、主旋律を担うのは多くの場合

などでしょう。

この主旋律の「裏」で鳴っているメロディが「対旋律」です。主旋律を変えてしまったらそれはもう「作曲」なので、編曲においてはこの「対旋律」を考えることになります。

ハーモニー

音楽の3要素のうち、もっともその「雰囲気」を特徴づけるのが「ハーモニー」です。コード進行、と言い換えてもいいでしょう。マイナーキーのコード進行を使えば陰影が表現されますし、メジャーキーのコード進行ならばストレートさや快活さが表現されるでしょう。また、ダイアトニック・コード中心ならば親しみやすさやキャッチーさが演出されますし、ノンダイアトニックコードを使うことで楽曲に「ひっかかり」や緊張感を加えることができます。いろいろ専門用語が出てきましたが、帰らないで! 今回はコード進行は所与のものとして扱うので、ここを考える必要はありません。ただ、ハーモニーは、編曲の上では「制約」あるいは「環境」の役割をする、と考えられるでしょう。

ここで足をとめて少し考えてみると、編曲においては、コード進行を変更しない限り(コード進行を振り直すことを「リハーモニゼーション」略して「リハモ」と呼んだりします)、音楽の3要素のうち「ハーモニー」は所与のものとなります。また、主旋律を変えてしまってはそれはもう編曲ではなく作曲になるため、「メロディ」に関しても「主旋律」は所与のものとなります。

編曲とはどういう行為か、ということを考えると、この制約、あるいは環境の上で、リズムと対旋律を考えていくのが編曲だと言えるでしょう。少なくとも、このワークショップでは編曲の定義を「コード進行と主旋律を所与のものとし、その中でリズムと対旋律を制作するもの」と定義します。

では、次のセクションからはリズムと対旋律について、各論を見ていきましょう。

各論::リズム

まずは編曲においてリズムをどう作っていくかを考えてみます。今回は守破離の「守」を考えるので、とくべつ個性的なことは考えず、まずは「その曲のジャンルを何にしたいか」から考えましょう。メロディが16分音符主体になっていて、四拍子であることから、

あたりは候補から消えますが、四拍子のスクエアな(シャッフルしていない)ビートならばなんでもハマりそうです。今回なら

あたりは全部4拍子だし、メロディにもマッチしそうなので行けそうです。「いや、行けそうです」って言ったって、こっちはそれが考えられないから困るんじゃないか! という話はありますが、これはぶっちゃけ「知識の勝負」です。定番パターンをいくつ知っているかが勝負を決めます。「学ぶはまねぶ」という言葉もあるくらいなので、最初は「このパターンかっこいいな!」って思ったものをまるパクリしましょう。いろんなリズムを吸収すると、だんだん「あれとこれミックスさせてみるとどうなるかな」みたいな発想がでてくることもありますが、まずはたくさんパクって「語彙」を増やしましょう。今回は、一番シンプルな(けど奥が深い)8ビート・ポップスでいきます。

リズムの基本となる味を決める

復習になりますが、ポピュラー・ミュージックにおいて、多くの場合、リズムは

の掛け合いによって表現されます。まずはドラムから見ていきましょう。8ビートのドラムのパターンを載せます。

ドラムのパターンをのせたら、次はベースを考えていきます。

ベースが決め手! みたいなジャンルでない場合、ベースは基本的にコードのルート音を中心に弾くことになります。そして、今は「リズム」を作っていっているということを思い出してください。そのため、まずはルート音だけでリズムを作っていきます。今は編曲の守破離における「守」をやっているので最も基本的な考え方「リズムのアクセントのうち、沈み込みを感じさせる部分」とベースの発音タイミングを一致させるという考え方でやっていってみましょう。

「リズムのアクセント」とはなんでしょうか。ドラムに注目してみてください。今回は「ドッタドドッタン」というリズムですが、このバスドラムがなっているところ。これが「リズムのアクセントのうち、沈み込みを感じさせる部分」、逆にスネアドラムがなってるところは、「リズムのアクセントのうち、浮き上がりを感じさせる部分」です。ためしに、ドッタドドッタンの「ド」の部分で体を沈み込ませ、「タン」の部分で体を起こしてみてください。しっくりくるはずです。逆をやってみると、なんだか不安な気持ちになってくるはずです。

では、単純にこのバスドラムがなっているところにベースを入れてみましょう。

なんの面白みもないですが、だいぶ「それらしく」はなってきたのではないでしょうか。

さて、リズムは

で作るのでしたね。最後はコードバッキングです。コードバッキングはベースの逆で、「リズムのアクセントの浮き上がる部分」で鳴らしてあげると自然です。スネアドラムがなっているところでコードを鳴らしてあげましょう。

これでリズムに関しては「基本となる味」が決まりました。ここからは、どんどん自分が出したいイメージに近づけていく作業です。「それをどうやるんだよ!!」という話があると思うので、今回はいくつか例を上げます。

ベースに動きをつける

今はベースがコードのルート音だけを弾いていますが、他の音も弾いてみましょう。ベースラインでよく使われるのは

あたりですが、この中でもルートが一番安定感があり、5thが次に安定感があり3rdとなるとだいぶ安定感が薄くなってきます。

このとき、リズム上で沈み込むところに対して安定感のある音を選んであげると、非常に安定したイメージに、逆にリズム上で沈み込むところに安定感の薄い音を選んであげると、比較的不安定になります。

ところで、さきほどドラムに関して「バスドラムのなっているところが ”沈みこむところ”」「スネアドラムのなっているところが “浮き上がるところ” 」と言いましたが、実は同じ「沈み込むところ」でも、「沈みこみ度合い」が異なります。

8ビートは口で言うと「ワン(・エン)・ツー(・エン)・スリー(・エン)・フォー(・エン)」なわけですが、四拍子では1,3拍目を強拍、2,4拍目を弱拍と呼びます「ワン」と「スリー」の部分が「強拍」、「ツー」と「フォー」の部分が弱拍ですね。「ワン・ツー・スリー・フォー」というイメージです。さらに言うと、ワンとスリーの間にも違いがあって、3拍目のことを「中強拍」と呼んだりします。

これを今回の「ドッタドドッタン」のバスドラムに合わせて考えてみましょう。

バスドラムがなっているのは、「一拍目表」と「二拍目裏」「三拍目面」です。これを「どれくらい沈みこむタイミングか」で考えると、「一拍目表が一番沈み込むところで、三拍目表がその次に沈み込むところ」「二拍目裏はそんなに沈み込まないところ」となります。じっさいに体を動かしてそういう動きをしてみてください。しっくりくるはずです。

それを踏まえた上で、強拍、中強拍に対して最も安定する音であるところのルートを、そうでないところに5thの音を選んでベースを動かしてみましょう。

安定感を保ったまま、リズムに動きがでてきましたね。

ではここで、あなたが「もうちょっと安定しない緊張感があったほうが楽曲のイメージに近いんだよなあ」と思ったとしましょう。そういうときには、逆に強拍に安定感の薄い音を持ってくればいいわけです。中強拍に3rdの音を持ってきてみましょう。

さっきは「どっしり安定」しすぎていたのが、ちょっと「不安定な感じ」になったのではないでしょうか。

その他、「経過音」とか「導音」とか「テンション・ノート」とかいろんな音が存在します。それらひとつひとつにそれぞれ「どれくらい沈み込みところで使うとどんなイメージになるか」という特徴があります。(ここから先は応用編なので今は理解できなくても大丈夫ですが)、例えばルートに対する導音を弱拍において、次の強拍でルートを弾くことで「解決感」を演出したり、「経過音」をあえて強拍に置くことで「未解決感」を演出したりできます。

かように、いろんなテクニックがありますが、これらを身に着けるためには、「たくさん楽曲を聴いてたくさん分析する」のが一番です。

「なんかこの曲のベースがすごいいいな」と思ったら、フレーズをただコピーするのではなく「リズムが沈み込むところ(あるいは浮き上がるところ)でこの音(それはルートなのか? 5thなのか? 3rdなのか? テンションノートなのであれば何度の音なのか?)を使っていて、その次にどういう音につなげているのか」を分析して、「そうか、こういう使いかたをするとこういう効果が出るのか」という語彙をたくさん身につけることで、「基本の味」からいろんなスパイスを効かせることができるようになります。

8分音符の刻みやコードバッキングに変化をつける

ベースの動きについては上述した通りですが、ハイハットが刻んでいる8分音符やコードバッキングに変化をつけることでも楽曲のイメージはがらりと変化します。

たとえば、8分音符の刻みを4分音符の刻みに変えてみて、それに合わせてコードバッキングも音符の長さを変えてみます。

かなりゆったりとした、流れるようなイメージに変化しましたね。コードバッキングをアルペジオに変えると、もっと流れるようなイメージになります。

あるいは、「あえてスネアと違うタイミングで音を鳴らす」ということで楽曲のリズムに多少の緊張感を与えることもできます

いっそ一部だけハイハットに三連符をまぜてみたら面白い効果が期待できるかもしれません(やってみてください)

コードバッキングについては、「スネアドラムにぶつける」が基本としてあります。その基本からさらに自分の描いたイメージに近づけるためには、そこからどのような変化をさせるとどのような印象になるのかをたくさん知って「語彙」を増やすことが肝心です。

これも、「この曲のこの感じいいな」と思った時に、単にフレーズをコピーするだけではなく、ドラムやベースに対してどのような関係の音を鳴らしているのかを分析することで、「どういう役割の音をどういうタイミングで鳴らせばどういうイメージになるのか」が身につき、どんどん「自分のもの」となっていきます。

各論::リズム::まとめ

一旦ここまでの話をまとめると、

ということになります。この「いろんな楽曲を分析して自分の引き出しを作っていく」というところが筆者の思う編曲の醍醐味であり、引き出しを増やせば増やすほど「頭の中にあるイメージ」を鮮明に音楽の形にしていくことができます。それはとても楽しいことです。ぜひ、弾き語りミュージシャンから「バンドアレンジができるミュージシャン」になって、さらに豊かな音楽の世界を一緒に遊び尽くしましょう。

このセクションの最後に付録として、筆者が上述の考え方で作った 16ビート・ダンス・バージョン, およびルンバ・バージョンをあげておきます。

16ビート:

ルンバ:

各論::対旋律

ところで、編曲とは「コード進行と主旋律を環境もしくは制約として、その上でリズムと対旋律を考えること」と冒頭で定義しました。リズムについては前セクションで見てきたので、今度はここに対旋律を考えていきましょう。

対旋律は、主旋律の邪魔にならないように、主旋律の引き立て役となることがその基本です。もちろんこれは「基本」なので、あえて主旋律に対して挑みに行って緊張感を演出したりすることもあるわけですが、まずは守破離の守をおさえておきましょう。

基本形1: 掛け合いパターン

引き立て役になる方法の基本その1が、わたしが「掛け合いパターン」と呼んでいるパターンです。これは主旋律がたくさん動いているところでは対旋律は大人しくいていて、逆に主旋律が動いていないところでその隙間を埋めるように対旋律を動かすパターンです。

ストリングスや管楽器が対旋律をとるときにはこのパターンがよく使われます。

ストリングス

管楽器

主旋律が動いているところでは対旋律が邪魔しないためよく主旋律が耳に入り、逆に主旋律が休んでいるところでは対旋律が主張することで、うまく互いを補い合い、聴衆を飽きさせない効果を見込める定番パターンです。

基本系2: 逆旋律パターン

掛け合いパターンはかなり定番で安定感がありますが、一方で面白みにかける、という見方も可能かもしれません。そういうときには、あえて主旋律が動いているところで対旋律も動かしてみましょう。このときのポイントは、対旋律は主旋律とおおまかに逆の動きをすることです。

たとえば、今回の主旋律の前半に注目すると、メロディの形は山のようになっていて、低い音から始まり、中盤で音高のピークを迎え、最後にそれより低いところに落ち着くパターンになっています。ここに対して、対旋律はその逆、「高い音から始まり、中盤で音高が一番落ち、それより高い音で終わる」をぶつけてあげましょう。そうすることで、違いに異なるメロディを奏でていることがくっきりとわかります。

試しに、管楽器は掛け合いパターン、ストリングスは逆旋律パターンで対旋律を書いてみましょう。

だいぶゴージャスになってきたように思えます。

基本系3: シーケンスパターン

対旋律のもうひとつの基本パターンとして、同じフレーズを繰り返すパターンがあります。これをわたしは「シーケンスパターン」と呼んでいます。ずっと同じことをくり返いていると、人間の耳はそれを「あまり重要ではないもの」として捉えるので、細かく動くフレーズであっても主旋律を邪魔せず、対旋律として成立するパターンだと言えるでしょう。今回はシーケンスパターン定番のシンセサイザーを使ってみますが、エレキギターがシーケンスパターンの対旋律を担ったり、シーケンスをちょっとゆったりしたものにしたり、シーケンスにディレイをかけたりすることで、がらっと楽曲全体の雰囲気が変わったりするので、なかなか使い勝手の良いパターンです。これもいろんな楽曲を分析して語彙を増やしておくと良いでしょう。

今回は、管楽器による掛け合いパターン、ストリングスによる逆旋律パターン、シンセサイザーによるシーケンスパターンを「全部盛り」にしてみました。

大技:ユニゾンパターン

さらに、大技として「ユニゾンパターン」を紹介しておきます。これは、対旋律も主旋律と同時に、まったく同じフレーズを演奏するパターンです。これはかなり大技で、「キメ」のフレーズなどをユニゾンで演奏することで「ここ! ここがキメです!!」と主張するような勢いが発生します。が、大技なので乱用するとダサくなりがちなので、使用に注意が必要なパターンとも言えるでしょう。

各論::対旋律

対旋律のパターンとして、

を見てきました。

それぞれ非常によく利用されているパターンなので、様々な楽曲を聞いて「ここはXXパターンだな」と分析をして、語彙を増やしていくことで自由自在にこれらのパターンが使えるようになっていくでしょう。

まとめ

このワークショップでは、編曲の守破離の「守」を見てきました。様々な定番パターンを見てきましたが、これらを全部ぶっこめばいいものになる、というわけでもありません。まず「どんな音にしたいか」が先にあり、そこに近づけるために、ここで見てきたようなテクニックを目的に応じて戦略的に利用するのが良いでしょう。ここで扱った楽曲や編曲も、テクニックを紹介しただけなので、「それっぽく」はありますが、「なにがやりたいのかまったくわからん」「編曲家の表現したいものがない」だけのものになっています。まずは「どんな表現をしたいのか」を考え、そのためにテクニックを利用する意識でいることが肝要です。

また、当然のことですが、今回見てきたテクニックで編曲のすべてがカバーできているわけではありません。今回はフィルインについても一切触れていないですし、padと呼ばれるような役割についても触れていません。「どのような音色、どのような楽器に何を担ってもらうか」についても触れていません。しかし、何度も言うように、いろいろな楽曲の「どの音がどんな役割を担っているのか」を分析することで、どんどん編曲の語彙は広がっていきます。一緒に、広大な音楽の可能性の世界を楽しんで探検していきましょう!

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このドキュメントを書いた筆者は「丸山しんぺい」といい、弾き語りミュージシャンのための編曲、出張レコーディングを格安で請け負っています。詳しくはプロフィールサイトを御覧ください。ソロミュージシャンとしても活動していますしや、錦玉もなかというユニットや、TRIO the CMYKというバンドもやっています。ぜひ聴いてみてください。

また、バンドでは1st EPとしてラウンドアバウト - EPをリリースしています。このドキュメントが役に立った場合、ぜひおひねり代わりにbandcampで購入していただけるととても嬉しいです。